魔法使いの日常

魔法使いは《トライブ》に集う

現代の魔法使いたちは、人知れず独自のネットワークを持っています。その中で生まれる魔法使いのグループや組織をトライブと総称します。ナイトワンズを狩るために連携するチームのようなものから、現代社会になじんで暮らすための互助会のようなものまで、形態や規模、つながりの強さもさまざまです。

中には企業など表向きの顔を持って社会に属しているトライブもあります。最近では、インターネット上の仮想のコミュニティからなるトライブもあるようです。

時に、ヨーロッパの歴史に影から関与してきたため“闇の社交界”と称される「マスカレイド」や、ヴァチカンの秘密機関として存在すると噂される「殲滅騎士団」といった、大きな影響力を行使するトライブもありますが、かれらも含め、魔法使いはひとつのトライブが強大になりすぎることには慎重です。

大きすぎる組織の存在はかつての魔法文明のように、魔法の力を集積させることにつながり、異なる夜の介入を招くと考えられているからです。

それでもトライブが生まれるのは、魔法使いが現代社会ではマイノリティであるがゆえに背負う孤独を癒すためと、異なる夜の災厄に立ち向かうという過酷な使命に際して、生存率を高めるためです。魔法使いにとって、トライブはなくてはならない切実な理由があるのです。


隠夜と通廊

魔法使いはこの世界に重なって存在する別の空間をつくりだすことができます。これを隠夜(かくりよ/ヴェイルドナイト)と呼びます。

隠夜とは、魔法で創られた亜空間とでも言うべきものです。この世界の空間を占めることなく創造された、別の空間であり、内部の景色やそこに存在する事物、性質などは創造主によってすべて定められます。

魔法使いは、しばしば隠夜をおのれのプライヴェートスペースとして創り、使用します。隠夜とこの世界は互いに影響し合うことがないため、危険物を封印・遺棄するために使われることもあります。そのあるじとなる魔法使いの意志により、隠夜に立ち入るものを制限できるため、安全な避難や潜伏の場所としても使用されます。

隠夜とこの世界は扉や魔法陣といったものでつながれ、自由に行き来することができますが、多くの隠夜は創り手である主が認めたものしか立ち入れないような魔法で守られています。隠夜の出入り口は特定の地点でなくてはならず、複数の出入り口を持つことはできますが、一度定めた出入り口を移動させることはできません。

大きな隠夜をつくるにはより高度な魔法の技術がいるため、大規模な隠夜を所有することは魔法使いのステイタスでもあります。

かつて、魔法文明の中には、文明そのものが隠夜の中に存在するものさえあったと言います。もしかすると、今でも、滅び去った廃墟だけがある無人の隠夜があって、世界のどこかに出入り口があるのかもしれません。

・通廊

隠夜同士を魔法の路によって結ぶことも可能です。これを通廊(コリドー)と呼びます。

通廊を通って隠夜から隠夜へ移動することにより、物理的な距離を無視した移動が可能になります。これは魔法使いのコミュニティがもつ、交通機関に頼らない移動網として活用されています。ただし通廊はその始点・終点が隠夜であるため、2つの隠夜のあるじによる許しがあってはじめて通行可能になります。

また、通廊の創造は非常に高度で独特な魔法であり、その修得者は「ゲートキーパー」などと呼ばれ、一種の職人として珍重されています。


《予言の夢》の危険な誘い

魔法使いは、魔法が関与して起こる未来の出来事を、夢に見るという形で予知することができます。これを予言の夢と呼びます。

予言の夢で見た出来事は、魔法使いが意図的に関与することにより覆ることがありますが、そうでない限りは現実のものとなります。魔法使いでない人間は予言の夢の未来に抗うことはできません。

予言の夢のメカニズムはあきらかではありませんが、それは魔法使いをその使命に駆り立てるものであり、一種の呪いにも似ています。予言の夢が見せる未来は、多くが異なる夜がもたらす悲惨で理不尽な破壊や殺戮の光景だからです。

魔法使いは予言の夢によって、近く訪れるであろう悲劇を知り、それを阻止するために動き出します。もちろん、自身の平穏と安全のために、予言の夢を無視する魔法使いも少なくありません。しかし、予言の夢が予知した運命は否応なく自身を巻き込むこともありますし、悲劇的な運命が成就することが夢を見た魔法使いの精神を少しずつ蝕んでゆくこともあります。

・ピロートーカー

ピロートーカーは、魔法使いではない(ソウルレスである)にもかかわらず、予言の夢を見ることができる特異体質の人間です。脳に器質的な原因があるとされ、代償であるかのようにナルコレプシーに似た重度の睡眠障害を患っています。かれらの予言の夢は見られる頻度やその精度が魔法使いよりも高いため、情報提供者として魔法使いの組織に協力するかわりに庇護されているケースがよく見られます。

・グレートナイトメア

通常、予言の夢はあるひとつの事件について1名~数名の魔法使いまたはピロートーカーが見るものです。ですが、まれに、数十~百人以上が見る夢があり、それは概して巨大な災厄を予言しています。そういったものは特にグレートナイトメアと呼ばれ、観測されると、魔法使いのコミュニティには「非常事態」として認識されます。

グレートナイトメアの発生地点と予言された場所には、その災厄に対抗するため大勢のトライブが集結し、武勲で名を上げるチャンスとばかりに戦いに備える一方、巻き込まれたくない魔法使いたちは一斉に逃げ出していきます。

1908年のツングースカでの戦いや、1925年の太平洋上での戦いは、特に規模の大きなグレートナイトメアで、今でも魔法使いたちの語り草になっています。


《迷宮現象》に気をつけろ

迷宮現象とは、異なる夜の影響により、ある特定の事物に魔法が作用することを言います。

典型的には、一定の土地が魔法によって姿を変え、迷宮のような形になってしまうことなどがあり、このために「迷宮現象」と呼ばれますが、実際にはそのあらわれ方はさまざまです。

  • ・過去にその土地で起こった歴史的な事件が再現される
  • ・立ち入った人間は特定の設定に沿った容姿や服装に変わってしまう
  • ・領域内にいる人間は加速度的に老化していく
  • ・領域内にいる動物が人間の言葉を話し出す

などなど、迷宮現象がもたらす奇妙な状況には枚挙にいとまがありません。

迷宮現象の及ぶ範囲は物理的な空間だけを対象するのではなく、「ある特定の人物」や「特定の事件」が対象になることもあります。たとえば2006年以降、全世界で2000人以上もの人が「同じ男が出てくる夢を見た」という奇怪な出来事も、記録されている迷宮現象のひとつです。ボスニアに住むある男性は、数年間のうちに6回も自宅に隕石が落ちるという稀有な体験をしていますが、おそらくこの男性に迷宮現象が作用しているのでしょう。

魔法使いにとって、迷宮現象は「魔法の力が制限される」という厄介なものでもあります。

特に奇妙な状況の変化をともなわない場合も、魔法の制限は発生することがほとんどであり、魔法使いの戦いの困難さの大きな要因になっています。

デザイナーズ・メモ

「通廊」「ピロートーカー」そして「迷宮現象」

このページで紹介されている設定は、世界観をかたちづくるだけでなく、メタ的な必要性で加えられたものが多いです。メタ的な必要性とは、すなわち、PBWやTRPGのシナリオで使いやすいように、ということです。

「通廊」が存在することで、キャラクターの居住地に関係なく、世界のどこででもシナリオを展開することが可能です。「通廊」は世界中を結ぶことができますが、どこにでも出入り口があるわけではないので、「場所の移動」に意味を持たせたいシナリオでも問題ありません。

「アマゾンの密林」を舞台にしたい場合、最寄までは「通廊」で移動したことにして、現場までは「ジャングルの険しい道のり」を描写することができます。

「ピロートーカー」は、「シナリオをてっとりばやく依頼する役割」のNPCとして使うことができます。

情報源はコントロール不能な夢なので、都合よく出したい情報だけを出すことができます。つっこまれたら、その瞬間、睡眠障害で眠ってしまいます。

「迷宮現象」は最たるもので、TRPGのルールにおいては強制的に参加者のレベルを制限します。自由度の高い創作やPBWに比べて、TRPGはどうしてもルールですべてが再現できなかったり、ゲームとして成立させるためにはなにもかもを参加者の思いどおりにはできないことがあります。そこに制限をかけつつ、各自の自由設定を守るために、迷宮現象というものが用意されています。

創作やPBWでも、迷宮現象を持ち出すことで、設定の不整合などを呑みこむという使い方も可能です(「これ、ヘンじゃない?」「迷宮現象のせいだよ!!」)。

ちょっとムリめなPBWシナリオの背景として使用することもできるかもしれませんね(迷宮現象の影響下にある学校に潜入せよ。ただし、潜入中は全員、「学生」になる。……というシチュエーションでむりやり「学園ものシナリオ」を行うなどです)。

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